自律型海中ロボット「Tuna-Sand」
[東京大学生産技術研究所 浦研究室 株式会社海洋工学研究所 独立行政法人海上技術安全研究所]
概要
ケーブルに移動を制限されることなく広範囲の海底面を全自動で探査することが可能な自律型海中ロボット。2010年に富山湾においてベニズワイガニの生態を解明。水産資源や海底鉱資源調査への活用が期待される。
評価のポイント
従来に無い、高精度な自動観測が可能で、海底地点の詳細画像の撮影に成功するなど情報収集で高い実績をあげている。海底調査は周りを海に囲まれる日本とって必要不可欠であり、それを支援する重要なシステムである点が評価された。
自律型海中ロボット“Tuna-Sand”
低高度観測で観測可能な自律型海中ロボット
我が国の排他的経済水域内は、熱水鉱床などの鉱物資源やメタンハ イドレードなどのエネルギー資源が豊富に存在し、その多くが水深 200m以上の深海底に広範囲に分布しています。これらの海底資源を 調査するには広範囲の詳細な観測技術が必要ですが、現在主流の遠隔 操作型海中ロボット(ROV)では移動が制限されるため、量・質ともに十 分な調査ができません。そこで、ケーブルによって移動が制限されず、 自動観測ができる自律 型海中ロボット(AUV) の導入が不可欠で、研究 開発が行われています。 陸上と違い海中は電波 が通らない環境の上、詳 しい地図もなく、ロボット が高い精度の自己位置 を取得することは困難で す。したがって、開発され ているAUVのほとんど は障害物がない安全な 高高度からの調査に留 まっています。“Tuna-Sand”は、海底面すれすれを航行し、海底面の写真を撮影す る小型(240kg)のロボットです。 “Tuna-Sand”には、特別に開発した障害物検知装置がついていま す。シートレーザーを前方に出し、前方障害物の距離と形状を計測し、 回避行動をとるかとらないかを判断します。この装置は信頼性が高い ので、ロボットが海底面から1mぐらいまでの距離に寄っても、衝突や 捕捉の心配をせずに安心して行動できます。また、この装置は前方に ある物体(たとえば熱水チムニー)の詳細な形状を測定する時にも利 用します。 “Tuna-Sand”は3軸の光ファイバジャイロセンサと加速度センサか ら構成される慣性航法装置(INS)とドップラー式対地速度計(DVL)を 持ち、自身に搭載されたセンサのみで高精度な自己位置を取得し、低 高度で海底面を自動観測できます。低高度で観測することで、熱水鉱 床や噴出孔などの調査 対象に接近することがで き、上の写真のような噴 出孔がはっきりと確認で きる高解像度写真を広 範囲に渡って撮影することができます。
機器の構成/海底調査の流れ
“Tuna-Sand”は上部に2つ浮力材、中部にCPUボードやINSを格納 した主耐圧容器、下部にリチウムイオン電池を格納した2つの電池容器 を持ち、高密度ポリエチレンの板を構造部材として使用しています。前 方浮力材の上に取り付けられているGPSはINSのアライメントに使用 し、無線LANアンテナは陸上または海上で通信する際に使用します。 水平方向の移動用に220Wのスラスタを4基、垂直方向の移動用に 100Wのスラスタ2基を搭載しています。最大前進速度は0.9m/秒 です。海底面の形状を測定するプロファイリングソナー、海底面を撮影 するカメラとストロボ、海中で通信するための音響通信機器を搭載して います。また、電磁石式のバラストリリーサーを搭載しており、万が一ロ ボットが暴走したとしてもバッテリーが切れると自動的に浮上でき、確 実に調査から帰還することができます。
実海域の調査は複数のモードから構成されており、モードごとに設定 された条件を達成することで次のモードに遷移します。水中重量を 8kg程度に調整した“Tuna-Sand”を海に投入すると自身の重さで海 中に潜航します(Mode 0)。設定された深度に到達したところで Mode 10に遷移し、DVL等の機器の電源を投入します。DVLで対地 速度を検出できる高度に到達すると、バラストを投下し水中重量を中 性にし、音響通信でロボットの位置を更新します(Mode 20)。音響通 信が使用できない場合はDVLから得られる速度情報をINSに与え、再 度INSをアライメントします。Mode 20後、事前に海底の地形図が得 られる場合は、地形照合によって自己位置を修正します(Mode 30)。 Mode 31では、設定した観測ポイントを通過しながら海底面等を観測 します。全ての観測ポイントを通過後、バラストを投下し浮上します (Mode 40)。海底付近まで浮上すると全てのスラスタを停止して潜 航を終了します(Mode 50)。
海底調査の流れ
上越ガスハイドレート地帯の調査
日本海新潟沖の上越海盆では2004年にガスハイドレートの存在が 確認された以降、様々な調査によりメタン放出が最も活発である海鷹海脚や上越階級の頂部において、大小のマウンドやポックマーク地形 の発達が判明しています。また、マウンド上ではベニズワイガニの棲息 密度が高いことが分かっています。2010年に行ったYK10-08研究 航海で“Tuna-Sand”は、海鷹海脚および上越海丘の頂部(水深900 ~1,000m)の12箇所へと潜航し、海底面およびベニズワイガニの調 査を行いました。この研究航海では、ベニズワイガニの手足の状態が 分かる高解像度写真の写真に成功しました。
“Tuna-Sand”で撮影したベニズワイガニ
今後の予定
下の画像は上越海丘の頂部(水深975~980m)の潜航で得られ た615枚の画像をもとに作成した40m×20mのモザイク画像です。 このモザイク画像から800m2内に大型のオス416尾、小型のオスと メス2,925尾の計3,341尾、密度に換算して4.1匹/m2のベニズワイ ガニが棲息していることが分りました。これほど広範囲に渡って高解像 度写真を撮影し底生生物の資源量を明らかにした例は他にはなく、こ の調査結果は水産係者に新たな観測手法の有効性を示しました。2012年10月に“Tuna-Sand”を含めた3台のAUVを須美寿カル デラへと同時展開を計画しています。複数のAUVを同時に展開するこ とで、限られたシップタイムを有効に活用できることを期待しています。 2013年6月にはオホーツク海の北見大和堆にて、タラバガニやキチ ジの調査を行います。未知の深海がロボットたちによって拓かれていき ます。 なお、 “Tuna-Sand”は、海洋政策研究財団が行う技術開発基金によ “Tuna-Sand”で撮影した熱水噴出孔 る補助金を受けて開発されました。
モザイク画像 (広さ:40m×20m)