人の能力を超えた高速高信頼性検査ロボット
[株式会社デンソー]
概要
本ロボットは、動体視力という高度な視覚技術を有し、検査箇所毎に停止することなく、経済性を兼ね備えた、高速で信頼性の高い検査の自動化を可能とする。産業用ロボットの品質保証分野での活用という新たな市場を創出するものである。
評価のポイント
高品質を維持するための要「検査工程」
市場の要求に対応した多種多様な製品を高品質に製造すること が、日本のものづくりの競争力であり、世界をリードしてきた。 多くの製造業では、ロボットをはじめとする自動化技術でヒュー マンエラーを排除することにより高品質化を進めてきたが、品質 保証の要である検査工程については、人に勝る経済的な自動化が 難しく、遅れている。多種多様な製品の外観検査工程は, 検査箇所 の多さ、それらの配置が製品毎に異なるなどにより、人に頼らざる を得なかったためである。本ロボットは、この検査工程の自動化を可能とし、産業用ロボッ トの品質保証分野という新たな市場を創出するものである。 デンソーでは、国内外主要ラインの外観検査工程へ、本ロボット の導入を進めている。 これまでに、 64台を稼働、 トータル2000万台を検査し、不良流 出0件と完璧な品質保証を実現し、新市場創出の可能性を実証し た。その市場のポテンシャルは5万台を下らないと試算している。
人を超える高速化の実現
“高品質なモノづくり” に向けてデンソーでは、技術と技能との融 合による自動化を主体とした生産システムの高度化を進めてい る。 デンソーのロボット技術は、技術と技能の融合という点で特に “人に学ぶ自動化” をそのコア技術としている。これによって人の 振る舞い・機能をロボットに盛り込み、進化させ続けることが可能 であり, 確実な技術の蓄積, 効率的・経済的な自動化技術の開発を 可能にしてきた。 人の持つ視覚機能をロボットに取り込むことについても古くか ら行われており、加工や組立のための位置補正や部品供給のため のピッキング技術、部位を特定した外観検査などに用いてきたが、 人の能力には追いつけず、適用範囲が限られていた。製品全周にわたる検査が必要な最終外観検査工程自動化につ いても、社内需要の高さから、当初既存のロボットにカメラを持た せて自動検査を試みられた。 しかし、検査に要する時間の点で、人 の作業には全く及ばないため、検査員を代替するには経済面で限 界であった。 検査時間短縮のため、 トラッキング技術を活用して製品を搬送し ながらの検査自動化も試みたが、検査箇所とカメラの相対速度を ゼロとする 「静止視力」のみのロボットでは、人の能力を超えること は出来なかった。 そこで、熟練作業者の流れるような検査作業に学び、 この人の能 力を超える速度で動 きながら検査するため の新機能の技術開発 に着手した。 検査ロボットの仕事 は、検査が必要な箇所 で確実な認識を行うこ とであるため、要検査 箇所群を結んだ経路 を動きながら認識する ことが命題となる。動きながら仕事をするロボットとして、NC加工機やシーム溶接ロボッ トがあるが、通常、3次元空間内に設定された軌跡をトレースする ための制御を逐次連続的に行うため、高速化に限界があり人の能 力を超えることができない。 そこで、高速移動時の軌跡を予測しながら、必ずすべての検査 箇所を通過する一筆書きの経路を自律的に計算し、必要なタイミ ングでストロボ撮影を実現する制御技術を開発することにより、人 を超える 「動体視力」を実現した。 この「動体視力」を実装した新しい検査ロボットの開発により、人より高速でかつ信頼性の高い認識が可能となり, 検査作業全体で は人の1.6倍の高速な自動化が実現された。
徹底した操作性の向上と安全性の確保
従来、 このような多関節ロボットに対してその動作の教示を行う 場合、専門のオペレータが安全柵内に入り、ティーチングペンダン トにより行うことが一般的である。また、外観検査のための画像処 理を実行するためには専門技術者によるプログラミングが必要で あった。 本ロボットでは、 3Dマウスによる直感的な操作で、 カメラの視野 をモニタ画面で確認しながら検査箇所を選択するだけで、検査ロ ボット全体の教示を可能とするプログラムレス操作構造を開発、導 入している。その結果、専門知識を持たない現場作業者でも可能 なレベルまで操作の簡単化を実現し、従来、必要であった専門技 術者を不要とした。また、 この結果、作業者は安全柵外から操作できるため、人に対す る安全性も確保されている。
今後の展開
本ロボットは、デンソー西尾工場の自動車用エアコンラインに導 入して以来順次展開し、現在、国内外の様々な製品の生産ラインにてトータル64台が稼働中である。 人の命に関わる自動車部品を製造するデンソーは、品質を最重 要としたものづくりに取り組んでいる。高品質なものづくりの基本 は、不良品を1個たりともお客様に流出させないことであり、今後 も国内外に本ロボットの導入、展開をさらに進めていく予定である。