MR画像誘導下小型手術用ロボティックシステム
[九州大学 株式会社日立製作所 株式会社日立メディコ 瑞穂医科工業株式会社 東京大学 早稲田大学]
概要
磁気共鳴診断(MR)画像誘導下手術において、1cm径と細径でありながら人の手のように動く微細な操作が可能な手術用ロボット鉗子と、軟性組織の描出性能に優れるMR画像による手術中のリアルタイムナビから成る内視鏡外科手術支援システム。人の眼に見えない情報と人の手を超えた道具の融合により、外科手術で最も高度な技術を要求される内視鏡外科手術をこれまでにない正確さと安全性で実現する。このシステムはまだ研究開発段階であり、九州大学病院では、これらの臨床応用に向けオープンMRI治療室を設置しMR画像誘導による治療研究を継続している。平成19年4月~9月の間に8例の肝癌に対する治療を行い、MR画像誘導ナビの有用性を確認している。MRIで体内を実時間で見ながら手術ができるシステムは世界でも例がないため、早期実用化が望まれている。
評価のポイント
人の眼に見えない情報と人の手を超えた道具の融合
視野と手術操作性が制限される内視鏡外科手術で は、外科医は高度な技術が要求されます。本システ ムは、1cm径と細径でありながら人の手のように動 き微細な操作が可能な手術用ロボット鉗子を搭載す る小型マニピュレータと、軟性組織の描出性能に優 れる磁気共鳴診断(MR)画像による手術中のリアル タイムナビゲーション、およびMR対応手術台からなる内視鏡外科手術支援システムです。 幅:1m×奥行き:1m×高さ:0.4mとコンパクトなマ ニピュレータは、既存の大型の手術支援システムに 較べて手術室の占有率を大幅に軽減すると共に、地 磁気の約1000倍という強磁場空間であるMRI装 置の中で、MR画像に影響を及ぼさずに動作可能と することにより、MRIとの融合も実現しました。 ナビゲーションシステムは、鉗子操作に追随した2次 元MR画像を表示し、MR画像から構築された体腔 内の3次元画像上における鉗子の位置情報をリアル タイムに提示します。また、手術前に治療ターゲット や重要血管を登録すれば、侵襲の少ない最適な手 術計画を立案・シミュレートすることが可能です。手 術中には、これらの情報を確認しながら治療が可能 で、安全な治療の施行を支援します。 これら人の眼に見えない情報と人の手を超えた道 具の融合により、外科手術で高度な技術を要求される内視鏡外科手術をこれまでにない正確さと安全 性で実現します。
本格的な評価実験
我々は、NEDO技術開発機構からの委託を受けて、 平成14年度から17年度までは、臨床仕様に合わせ たシステムの仕様設計および試作、改良に取り組 み、平成18年2月から平成19年3月にかけて、本シ ステムの臨床有用性について本格的な評価を行っ てきました。 具体的には、MR画像誘導下腹腔鏡下ラジオ波焼灼 療法を摸擬した動物実験により、実際の手術を想定 した評価実験を行いました。本実験により、リアルタ イムMR画像を確認しながら手術用ロボット鉗子を 操作することで、腫瘍に対して精確にアプローチし、 また周辺の臓器に対する侵襲を最小限に抑えた治 療を行うことが可能であることを確認いたしました。 さらに、リアルタイムMR画像を用いたナビゲーショ ンシステムの有用性について広く評価を行うため、 様々な診療科の臨床医に使用頂き、模型を用いた治 療の模擬実験を行ってきました。その結果、MR対応 ロボットの使用により、最適な穿刺経路を画像、及び マニピュレータによって誘導する方法が有用である ことを確認いたしました。
高い市場ニーズと法整備、社会的コンセンサス構築への継続的活動
海外では、da Vinci (米国製)が全世界で656台(2007年6月現在)導入され、前立腺癌に対する全 手術総数の6割(米国)がロボットで施行されるよう になるなど、臨床現場における手術ロボットの役割 は広がっています。一方で、国内でも、内視鏡外科手 術件数は増加しており手術支援ロボットに対する国 内外科医のニーズは高いものの、治療機器の事業 化に対する環境は依然厳しく、薬事の認可を得るの が困難な状況であることから、現時点で本システム の普及は困難と言わざるを得ません。 そこで、我々のチームでは、九州大学病院内視鏡外 科手術トレーニングセンターや医療機関等との連携 による研究を継続し、本システムの中でもビジネス 展開可能なパーツから、共同研究を進めてきた企業 による事業化を検討しております。今後、関連学会等 において本試験研究の成果をアピールするなど、行 政による市場環境の整備促進、社会的コンセンサス に繋がる活動を継続したいと考えております。
安全な臨床導入を促進する教育訓練システム
以上のような研究開発の臨床前試験とその臨床応 用に向け、九州大学病院では基礎的動物実験目的と 臨床医および企業関係者の教育訓練システムとし て使用できる実験用オープンMRIを、平成17年3月 には臨床用オープンMRI治療室を設置しました。現 在、オープンMRI治療室では、MR画像誘導に関する 臨床研究を進めており、肝癌に対するラジオ波焼灼 療法をMR画像誘導下に施行することで良好な結果 が得られつつあります。今後も、このような臨床研究 を継続しMR画像誘導下治療の有用性を明らかにす ると共に、新規医療技術の安全な臨床導入のため、 実験用オープンMRIを用いたスタッフのトレーニン グを行い、MR画像誘導下小型手術用ロボティックシ ステムの臨床応用へつなげて行きたいと考えており ます。
九州大学病院オープンMRI治療室